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2003.11.06 (木)

「 亡命者が語る、北朝鮮の偽り 」

『週刊新潮』 2003年11月13日号
日本ルネッサンス 第92回

「死亡と伝えられた日本人拉致被害者は生きています。北朝鮮は利用価値のある人間を死なせるような戦術はとりません」

自信をもってこう語るのは9歳から19歳までの10年間を北朝鮮の政治犯収容所に入れられ、後に奇跡的に脱出した姜哲煥氏である。祖母、父、叔父、妹と哲煥氏の5人が1977年から87年まで、動物以下の扱いをうけて過ごしたのは平壌の北東、耀徳郡の山間の奥地に作られた革命化区域とよばれる村だった。

生きて出る人はいないと言われた収容所から開放された氏は、やがて同じ収容所にいた安赫氏と共に、金日成、正日親子への復讐を誓って北朝鮮を脱出、中国経由で韓国に亡命した。いま30代半ばの両氏の“復讐”は、北朝鮮の実態を世界に知らせ、言論の力で北朝鮮の現体制を終結させることだ。
 韓国に亡命して10年、姜氏はいま『朝鮮日報』の北朝鮮問題担当記者だ。同紙も、姜氏も高度の北朝鮮情報を集中して把握出来る立場である。その姜氏が自らも亡命者や元工作員らから情報を収集し、拉致被害者は生きているというのだ。

「拉致実行部隊の工作員は日本でも有名な安明進氏などのように、北朝鮮のスーパーエリートです。1000人のなかから1人というふうに多勢の若い候補生から選びます。平壌で特別訓練し、そこからまた選ばれた人間が海外任務につきます。
 
工作員の育成には資金と時間がかかります。海外工作に際しては綿密な事前調査があります。コストをかけリスクを冒して手に入れた人材を、簡単に死なせはしないと思います」

拉致の可能性が排除出来ない失踪者の調査を進めている「特定失踪者問題調査会」代表の荒木和博氏も、姜氏と同意見だ。今年一月からの調査の結果、3桁の人々が拉致されているとの結論に達した荒木氏は、工作員らは綿密な調査で標的を定めて侵入、拉致していったと断言する。

「蓮池さんや地村さんらも、偶然海岸近くに行って拉致されたというより、身辺を調べて犯行に及んでいると思います。北朝鮮が必要とする人材を、つけ狙った挙句、調達していった可能性が極めて高いというのが、我々調査会の見方です」

では、拉致被害者の命は守られているのか。北朝鮮は粛清の国と思われがちだが、拉致被害者は生きていると姜氏が考えるのには理由がある。

「大韓航空機爆破犯、金賢姫の家族も死亡と発表されましたが、家族は収容所で暮らしているという情報が有力です。反北朝鮮活動をしたとされるスパイ、オー・キルラム氏の家族も全員死亡と言われましたが、私のいた耀徳収容所にいたのが確認されています。しかも、彼らの生活は、収容所内の他の人たちとは別に管理されているようなのです。生かさず殺さずで、つまり、殺さない。収容所内でも割と楽な仕事を割り振られていると思います」

めぐみさんは生きている

無実の罪で収容所に入れられ、酷い扱いで死なされていく北朝鮮の一般国民とは異なり、利用価値のある人々は、収容所に入れられた場合でも、死なせはしない。まして、日本から拉致した人間は特別に管理されているというのだ。

市川さんや増元さんは、日本に戻せば北朝鮮当局が困るような秘密に関わっていることも十分考えられる、横田めぐみさんの娘の恵京さんが母親は死んだと涙を流して語っても、真実でない可能性も高いと指摘して、姜氏は昨年のユー・テジュン事件についてざっと以下のように語った。

ユー・テジュン氏は母親と息子を連れて韓国に亡命した人物で、姜氏も何度も韓国で会った。石炭販売の指導員だったそうだ。彼は亡命したものの、残してきた妻が心配で、再び北朝鮮に戻り妻を連れ出そうとした。だが、試みは失敗し、韓国では彼が銃殺されたとの情報が流れた。すると、北朝鮮側はラジオにユー氏を出演させ、銃殺の情報を伝えた韓国のメディアと韓国政府を非難した。それを聞いたユー氏の母親が、あの声は息子の声ではないと言い出した。北朝鮮側は今度は彼をビデオに登場させ、これを韓国MBCテレビが入手し、報じた。

「このときユー氏が使った母親批判の言葉は、極めつきの女性への蔑称でした。私は彼を知っていますが、あんな汚いののしり言葉で母親を非難する人ではありません。けれどテレビでの彼は、母親を憎んで馬鹿にしているような言葉と素振りでした。北朝鮮では、思ってもいないこと、事実でもないことも、人々は時に応じて迫真の息づかいで語るのです」

だから、恵京さんが語っためぐみさんの死も、事実ではない可能性があるというのだ。

『救う会』会長の佐藤勝巳氏は、いまや日本人拉致被害者の帰国の代償として、一人10億円という類の情報が駆け巡ると指摘。だから尚更、北朝鮮は日本人被害者をカードとして扱うはずだと強調した。

難民制作を見直せ

では、一体どのようにしたら被害者を取り戻せるのか。姜氏は東独の事例から、100万といわず、10万人単位で脱北者が出れば北朝鮮は自滅する、そのためにも脱北者を難民として受け入れる国際的枠組みが必要だと強調した。

金正日体制の崩壊は、当然拉致問題の解決ももたらす。急がば回れで、難民受け入れ政策で金正日政権を倒す力とするのも有効な手だ。そのためにも、難民も亡命者も基本的に受け入れないという日本の政策は、好い加減、見直さなければならないと思う。政策の見直しが直ちに出来ないなら、中国に脱北者の受け入れセンター構築を働きかけ、その資金を提供するくらいの申し出をするがよい。そうすれば、脱北者を北に送り返す中国の非情な政策も改めさせることが出来る。

日本国内の拉致に関する危機意識は、驚くほど変わってきており、この種の政策変更も、いまや、不可能ではない。

たとえば拉致被害者の家族会が行った衆院選挙候補者全員へのアンケート調査を見よ。今回の回答率は84%だった。3年前の全国会議員対象の同様の調査の回答率15%弱に較べると、まさに隔世の感がある。

同調査の、拉致はテロかとの問いに、日本共産党も含めて全員が「はい」と答えた。国家によるテロ行為は許さないという意思表示の具体策が、北朝鮮に資金と物資を運ぶ船の入港制限である。入港制限及び経済制裁を可能にする外為法の改正には自民党も民主党も賛成と回答した。

KEDO(挑戦半島エネルギー開発機構)の活動もすでに中止に追い込まれた。日朝間の船の往来を制限し、金正日政権への包囲網を確実に狭め、北朝鮮の現体制をよくよく識っている姜氏が「生きている」という拉致被害者全員の開放を前提とする外交をフル展開させるときだ。

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